名探偵と餃子定食
「ニンニク抜きの料理を頼むのが、気配りだと思うかね? ワトソンくん」
「私は好きなものを食べる方がいいと思いますけどね。あと、名前、ワトソンじゃないです、和田です」
和田は右手を少しだけあげて、すんませーんと声を上げる。
私と和田は昼食を取りに近所のラーメン屋に来たところだった。
店員さんが近づいて来て、伝票を取り出したのを確認した後、和田はゆっくりと丁寧にオーダーをする。
「餃子定食、背脂少なめで、佐藤先輩も同じでよろしかったですよね?」
「佐藤ではない、シャーロックと呼びたまえ、ワトソンくん」
「はいはい、じゃあ、店員さん以上でお願いします。あっ、餃子はニンニク抜きで」
店員がオーダーをオウムのように繰り返し、足早に立ち去ったのを確認してから、小声で、和田に話しかける。
「ワトソンくん。君はニンニクが好きではなかったかね?」
「お昼からもありますし、それに先輩はニンニクの匂い苦手じゃないですか」
「先程、好きなものを食べるのが良いと言わなかったかね?」
「餃子より先輩の方が好きだってことですよ。これ、内緒ですよ?」
「内緒話を本人に言うのはどうかと思うがね」
「名探偵様には謎解きを楽しんで欲しいかなと。あっ、料理きましたよ、冷める前に食べちゃいましょう」
和田は会話を拒むかのように一心不乱に料理をかき込む。
その表情は普段よりも少し赤くなっているように見えた。